首相官邸キッズルーム / 司馬 遼太郎
歴史小説の大御所、司馬遼太郎が小学校六年生の国語の教科書のために書いた、子供たちへのメッセージ。
多くの人がこれを読んで、感動したと言います。でも私の意見はまったく違います。彼は最後に来てなんという駄文を書いてしまったのかと。
多くの司馬ファンの例外にもれず、私も「竜馬がゆく」で幕末の風雲児の生き方に非常な爽快感を感じ、「坂の上の雲」では先人たちが歩んだ苦難の道に思いをはせ、感動した一人です。つい最近まで、文庫棚のほとんどは氏の小説で占められていたほど夢中になりました。今でも気に入った小説を読み返すことがあります。
彼の歴史小説からは多くのことを学びました。その歴史観が「司馬史観」と呼ばれて賞賛される一方、強すぎる影響力と公平さを欠いた歴史評が非難されるようになっても、司馬遼太郎の小説はやはりおもしろく、魅力的です。それらに出てくる人間たちの生きざまは、私の脳裏に強くやきついています。
しかし、私がもし「二十一世紀に...」を先に読んでしまったら、そのほかの小説を読む気にはなれなかったでしょう。私にとってこの文章は、単なる歴史好きなじいさんのくどくどした説教にしか映らなかったからです。「強くなりなさい」「人にやさしくなりなさい」、言いたいことはもっともだ、でも、こんな陳腐な言葉が人の心の中にしみていくものなのか。彼は歴史小説ですでにもっと深いことを伝えるのに成功したのではなかったか。子供たちが、この文章に嫌気がさして、彼の他の小説を敬遠しないか気がかりでなりません。
彼は歴史小説というすぐれた手段を通じ、さまざまな人の生き方を表すことで、世の中の価値観や人生の意味 (あるいは無意味) を雄弁に伝えてきました。それなのになぜ、晩年になってこのようなつまらない文章を書いたのでしょうか。もしかすると、あせってしまったのかもしれません。世界に問い、働きかける時間が、これ以上自分に残っていないことに。しかし、氏のファンの一人としては、彼が最期に単なる説教ジジイになってしまったことが涙がでるほどくやしいのです。
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